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「立川からはじめる未来」 10: 合言葉「ありそうでない」は、ジャンプではなくて背伸びで

ずいぶん間が空きました。5回に分けて、自分が経験した仕事や考え方を紹介してきました。その上で、PLAY! がどんな場所を目指しているのかについて、お話をしていきたいと思います。

「ありそうでないこと」。

PLAY! のプロジェクト立ち上げ時から掲げている合言葉です。これはぼくが大切にしている言葉で、PLAY! でない場面でもしばしば言っています。「ありそうなこと」は世の中にたくさんあります。すでに成功したものをなぞれば、事業主や消費者にも安心感が広がります。けれど「ありそうなこと」は「どこにでもある」価値でしかなく、過去の成功を超えることはありません。

ずいぶん前、アートディレクターの祖父江慎さんに、ディック・ブルーナが1955年に自費出版した絵本『ちいさなうさこちゃん』の第1版を見てもらったことがあります。それは1963年に出版されたおなじみの絵本『ちいさなうさこちゃん』のもとになったもので、正方形でもなければ、イラストも均一の太さの線ではなくて、うさこちゃんも洗練された姿ではありません。けれども伸びやかで自由な筆致がそこにはあります。祖父江さんはうーん、いいねえ、と、うっとりしながらながめ、作り直される8年間に何が起こったのか、思いを巡らせながら話は盛り上がりました。

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ところが次に、その同じ年に描かれたもうひとつの絵本『うさこちゃんとどうぶつえん』の第1版を見ました。すると、祖父江さんはがっかりしたようにいいました。「これはなんだかつまらないねえ。きっと、うまくいったものをまねしちゃったんだよ」。ぼくには同じように伸びやかに見えていた絵は、言われてみれば、どことなく縮こまった、できあがったスタイルをなぞったものに見えました。

「ありそうでない」とは、どこかにありそうだけれど、よくよく考えてみると、実はない、というものです。既存の価値を見つめ直し、光を当てたり、角度を変えてみて、メンテナンスすることで、ニーズを掘り起こそうとするものです。それは、一から生み出すよりは難しくなく、きっと誰にでもチャンスがあるはず。けれども、「ありそうでない」ものを生み出すためには、ひたすらに考え、いったりきたり自己検証を繰り返す、地道な努力が必要です。例えるなら、ジャンプして一発勝負に賭けるより、背伸びをし続けるような。

PLAY! での「ありそうでない」とは何か。それは、施設やプロジェクトが有機的に結びつき、増えていき、立川という場所を超えて、価値観が広がっていく点です。例えばMUSEUMとPARKが一緒になった施設なので、MUSEUMのコンテンツをPARKで体験することができるし、プログラムを共同で開発することもできます。ビジュアルブック『PLAY! MAGAZINE』を一般書籍として定期刊行すれば、施設やコンテンツの拡張性、地域の魅力や可能性を全国に伝えてくことができます。吉吉祥寺にサテライトをもって情報発信をすれば、協力者との活動範囲が広がり、マーケティングや商圏の拡大にもつながっていきます。

こうした「ありそうでない」ビジョンと取り組みは、民間の施設だからできているとも言えます。ほとんどの文化施設は、行政や企業などの支援を得て運営されています。PLAY! は民間による取り組みです。営利を目的とはしませんが、一定の収益がなければ続けることができません。「ありそうでない」取り組みは、プロジェクトを続けるためのビジネス上の戦略でもあります。こうしたスキーム自体が「ありそうでない」ともいえます。

「ありそうでない」を進める過程では、関係者に戸惑いや不安が生まれます。最初はうまくいかないこともあります。けれども、新しい価値を社会に供給せずして、人々の期待や支持を得ることはできません。結果として、人々がよりよく暮らせる、持続可能な社会は生まれないと思います。次回からは、個別の施設についてより具体的な話をしていきたいと思います。

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2020年6月、東京・立川の新街区「GREEN SPRINGS」内にオープンした美術館と子どもの遊び場を中心とする複合文化施設です。「ありそうでない」場所をつくるため、PLAY!が目指すもの、活動が拡張するプロセスや断片を、プロデューサーの草刈大介が、短い文章でたくさん書きます。
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