「立川からはじめる未来」 5: PLAY! に形を(2) 文字を菊地さんに
アートディレクターの菊地敦己さんは、青森県立美術館のヴィジュアル・アイデンティティ(VI)とサイン計画がよく知られています。美術館専用の和欧書体を設計し、ロゴタイプや館内のサインに活用し明確なアイデンティティを生み出しました。いつ見てもほれぼれする仕事です。
菊地さんとは面識はありましたが、じっくり仕事をしたのは、2017年の「シンプルの正体 ディック・ブルーナ」展のときが初めてでした。2005年から5年おきに「ミッフィー展」を企画してきたのですが、その時のお題は「ミッフィー抜きのブルーナ展」。そこで考えたテーマが、ブルーナの代名詞として繰り返し使われる「シンプルさ」を解き明かすこと。グラフィックデザインや絵本の仕事を目を凝らして見ることで、ブルーナ独特のシンプルさを言語化してみようという試みでした。
セクション構成や作品の選定をすすめるなかで、展示の仕方、本の仕上がりを意識することが重要だと感じました。そこで、大局的に物事をとらえることができて、ブルーナにも詳しい菊地さんに、アートディレクターとして加わってもらいました。キュレーションの大枠や細部にアドバイスをもらいながら企画がすすみ、菊地さんが会場デザイン、宣伝物、図録のデザインを手がけました。
どれも素晴らしい仕上がりでしたが、図録は「完璧」でした。もちろん表紙周りも素敵なのですが、中でも図版のあしらいが「魔法」のようでした。小さな判型なのに、図版が大きく見える。展覧会の図録は、作品をよく見せる「べき」という考えから、大きめの判型に図版を大きく載せがちです。ところがこの本は、手軽なペーパーバックのサイズに、作品がちょうどよくレイアウトされていて、ただただ見やすい。菊地さんに聞けば、何種類かの図版を収めるために、計算に計算を重ねて絶妙なフォーマットを作り出していて、この本で一番苦労したのはこの収まりだった、と。デザインが何のためにあるのかを知らしめられた出来事でした。
話をPLAY! に戻します。PLAY! は複合施設です。ミュージアムと子どもの屋内遊び場を中心に、ショップやカフェがある。ただ、個々が独立して見えてしまうと、どこかつまらなく見えてしまう。みずみずしく、魅力的に見えるためには、個々が有機的に結びつき、かつ、活動が外に飛び出す勢いも必要ではないかと感じていました。ぼんやりと、立川とは別の場所にサテライト・スペースを作ったり、PLAY! のメッセージを発信する媒体を作る企画も構想していました。PLAY! のロゴやVIは、MUSEUMやPARKのコンテンツのあり方だけでなく、活動が増えていくポテンシャルも内在させたいと考えていました。
プロジェクトの立ち上がりから直感的に菊地さんがいいのでは、と思っていましたが、状況が整ってくるにつれてその意識は強まり、PLAY! という名前が決まった時、いよいよ確信となりました。菊地さんは理知的で非常に緻密でありながらも、明るい情感をたたえている(よく考えると菊地さんの人間性かも)。PLAY! という言葉や目指すイメージは、菊地さんの表現にも符合していたし、菊地さんが2012年に出版した作品集の名前が「PLAY」という奇縁もありました。
南青山の事務所に会いに行き、プロジェクトの説明をしました。菊地さんは腕組みをしながら、うん、うん、なるほどね、と頷いて聞いていました。一通り話を終えると、菊地さんが言いました。
「PLAY! の面白いところは、拡張性にあるんじゃないかな」
この一言で、PLAY! の目指すべき方向が、僕の中でははっきりとしたイメージとして立ち上がりました。MUSEUM、PARK、CAFE、SHOPに加えて、MAGAZINE、SATELITE、LIVEなど、PLAY! の価値を広げていくコンテンツがどんどん拡張し、相互作用をしていく場所。PLAY! は球体のようなもので、その輪郭はどんどん広がっていく。ロゴタイプができたわけではないのに、PLAY! のありようが一気に見えてきました。その後出来上がってくるロゴタイプは、さらに大きな推進力を備えていました。